空が、雨の湿度を含んでいた。
呼応して、森の深い緑が息づく。
私の肺は、そのしっとりと甘い空気を呼吸する。
夜中の高速道路を飛ばして、北へ。
東京から、ほんの4時間弱で、私たちは緑の森の中にいる
季節が逆回しで、また紫陽花の花を眺める。
雨露に濡れた、可憐な藍。
山道を少し登って、私たちは寺院を目指す。
途中、通り過ぎた渓谷は、どこまでも透明な水を湛えていた。
川のうつくしさに、私は何度も振り返る。
たどり着いた社殿には、素朴な木彫の仏さま。
並んで手を合わせる。
大きな大きな杉の木立。
蝉の鳴き声が雨のように降る。
その景色を、私は呆然とただ眺めた。
どこまでも静かな景色の、その静けさを私たちは黙って聞く。
野ゆりがたくさん咲いていた。
祖母が庭にたくさん咲かせていたのを、不意に思い出す。
遠くて眩しい夏の記憶。
旅の時だけは、早起きをする。
夜明けと同時に目を覚まして、まだひとけのない境内を歩く。
静謐で、清浄な空間。
森が、見ている。
手向けられた花の鮮やかな色合い。
洞窟や、岩に彫られた仏さまの姿を、私たちはとてもうつくしいと思う。