An atmosphere of intimacy around the table.

 

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一緒に暮らすようになるまで、彼には料理らしい料理を作ってあげなかった。全く、全然。

それは単に、朝もやのなかの冷えきった部屋(共産主義的アパート)でとる、なみなみと湯気を立てるオートミールのおかゆだったり、ただの蜂蜜(サマルカンドの山の蜂蜜)をのせた、固くなりかけたリピョーシカだったり。

別に意地悪ではないのだ。私には、料理は、家族のしるし、だったから。

料理は、心から好きだった。
野菜やお肉やお魚。いきものの命をいただいて、それを丁寧に料理して、自分のからだに吸収すること。
その過程全てが神聖で、かつそれは、どこまでも日常の、生きてゆくいきものの、天と地のすごいところみたいで、生々しい。

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タシュケントで一人暮らしをしていたあのころ。
時々、あたまが疲弊すると(でもそれでいて、身体には力があるようなアンバランスな時)、私は黙々と料理をした。
それは私にとって、或いは儀式のようなものだった。
バザールに行って、野菜を買って、卵も買って、果物屋にも寄る。朝鮮半島系のおばさんから、ごま油も買う。
全部、テーブルに並べる、色とりどり。
それからは、ただひたすらに、手順だけを反芻する。包丁の刃先を凝視し、熱い湯気を吸って、弾ける音を聞いて。
コリアンダーを刻んで、むせかえるような青い葉の匂い。豆をつぶす手ごたえ。手の中にある、いきもの。
しばらくすると、みんな、鍋の中、フライパンの中、しんなり、くったり、いい色、いい匂い。
しっかり「ごはん」になって、テーブルの上。
これもまた、ずらり、と並べる。

終わる頃には、程よく疲れて、無口になる。

この儀式に初めて彼を入れてあげた時、私は実はこの人と生きてゆきたいと思うくらいの、そんな決意をした時だった。
たまたま、じゃあ、うちでごはん食べる?と誘ったくらいの気安さに見せかけて。
だから、彼が、他のひとに、私の料理が好きだ、という時、私はひとりでにやにやする。

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あれからもう、7年が経って、私たちの家にも、私たちの家庭の料理がある。

日本に帰ってきて、四季の豊かな食材をさっぱりとした日本料理で食べようと思いつつも、ついつい、作るのは外国生活の中で作り慣れた料理。

彼が私の料理でいちばん好きなのは、カオ・マン・ガイ、二番めは、ココナッツミルクの入った北部風のトム・ヤム・クン(どちらもタイ料理だ)。

或いはコリアンダーをたっぷりすり潰したファラフェルだったり、香草をお腹にいっぱい詰めた中東風の鰯のファルシだったり。寒い冬には、スパイスをいっぱい効かせた火鍋。暑い夏には、さらさらとした南インドのカレー。

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そんなわが家での最近のいちばんのお気に入りは、モロッコ料理。

モロッコに行ったことのない私にとっては、パリの思い出の味(カルチェ・ラタンにある、La Mosquée de Parisのカフェ)。日本に帰ってきて、二人のモロッコ人の先生に習った。そしてうちの定番の家庭料理になりつつある。

そして今日は、お友達をおもてなし。

白と黒の、私にしては珍しい色合いのお皿は、自作の手描き。
モノトーンの少しモダンなモロッカンを目指してせっせと自分で描いた。
テーブルクロスは、焦げ茶に瀟洒な地模様、アラベスクの雰囲気に、フューシャピンクのタッセルとボーダーで鮮やかな色合いを足す。

前菜は、紫キャベツのコールスロー。クミンとシナモンで香りをつけて、オレンジで華やかさを出す。それに桃モッツアレラ。今夏の、断然の気に入り。

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来てくれたのは、気のおけない親友。
日々の日常を持ち寄って、そこには明るく楽しい空気だけが流れる、たくさん笑って、たらふく食べる。
つめたいスロヴェニアの白ワインを飲みながら、心からくつろいだ気持ちがする。

そんな友達が、大人になってからできると思わなかった。

一緒にみんなで料理をする。

メインは、シトロン・コンフィ(一年ものの塩漬けのレモン)をたっぷり入れた、チキンのタジン。
みんな主婦なので、手際がよい。
料理を一緒にするのは、素晴らしく親密で、素敵な行為だ。
種の入った小さな紫色のオリーヴをたくさん入れて、タジンでことことと煮こむ。

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添え物は、フォウルムシャメル、そら豆とピーのモロッコ風トマトソースの煮込み。
これにも、シトロン・コンフィがちゃんと入る。

おいしいね、て手作りの料理を一緒に食べる。
これが私にとって、いちばんの親密なしるし。

それから私の中で絶賛流行中の趣味、手描きのお皿作りを一緒に楽しむ。
お茶を飲みながら、おしゃべりをして、素敵だねなんてほめあって、なかなかに楽しい。

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デザートには、お友達がわざわざ作って持ってくてくれた、クレメ・ダンジュ。
白のふわふわが、口の中で溶ける。

料理の楽しさを、分け合えるのはしあわせ。

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